ファブリー病の治療

ファブリー病の治療では、さまざまな対応を考慮すべきです。

ファブリー病は、全身に症状があらわれる進行性慢性疾患です1,2。ファブリー病治療においては、以下のような対応が重要とされています。

  • 各臓器に不可逆的障害が生じる前に、早期に治療を開始することが望ましい1
  • 各臓器を定期的にしっかりとモニタリングする3,4
  • 特定の遺伝子変異、症状、症状のあらわれ方に応じて、治療を患者ごとに最適化する3,4
  • 各臓器で症状が進行しないよう、対症療法を行う5,6

臨床症状の観察と定期的なモニタリングが不可欠です。

初診時または経過観察のための受診時に、明らかな症状がみられなかったとしても、各臓器に合併症が起きている可能性があります4。このため、ファブリー病の治療においては、定期的な評価とモニタリングを行うことが重要です。また、初診時にはかならず検査を行う必要があります4

ファブリー病の影響が及ぶ臓器ごとに、推奨される評価方法とモニタリングスケジュールが異なります。

治療目標:疾患進行の抑制

ファブリー病の治療における重要な目標は、各臓器の症状の進行を抑制することです5,6。心臓系および腎臓系の障害は患者の生命を脅かすほどの重大な影響をもたらしかねないため、症状の進行を抑制することが特に重要です6,7。治療戦略の一環として、画像検査や臨床検査を行い、心臓および腎臓の症状の進行を定期的にモニタリングしてください6

ファブリー病の治療法は、現在2種類が承認されています。

一部の国で既に臨床で用いられている承認済みの治療法は以下の2つです。

  • 薬理学的シャペロン療法:現在、欧州連合、スイス、日本、韓国、オーストラリア、アルゼンチン、米国を含む、40ヵ国以上で用いられています。
  • 酵素補充療法(ERT:enzyme replacement therapy):現在、ほぼ全世界で用いられています。

薬理学的シャペロン療法

薬理学的シャペロンは、α-ガラクトシダーゼA(GLA)の変異型酵素の活性部位に結合し、その構造を安定化させて正常な酵素機能を回復させるはたらきを有しています8,9。この安定化作用により、GLAのライソゾームへの適切な輸送が促進される結果、GLAの酵素活性が上昇し、細胞内での糖脂質の分解が促進されます8,9。薬理学的シャペロン療法は生涯を通じて行う必要があります。

酵素補充療法(ERT)

ERTは、酵素を点滴で補充する治療法です。GLAの欠損または活性が低下している患者に、遺伝子組み換え技術により製造されたGLAを外部から補充することで、細胞に蓄積する糖脂質を分解します10。通常、2週間ごとに点滴静脈内投与します8。ERTは生涯を通じて行う必要があります8

さらに、ファブリー病の治療法が開発中です。

基質合成抑制療法(SRT:substrate reduction therapy)は現在、臨床試験で研究されている治療法です。SRTの目的は、グロボトリアオシルセラミド(GL-3)、グロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)をはじめ、ライソゾーム病の原因となる糖脂質の生合成を抑制することです3,8,11

遺伝子治療は、さまざまな遺伝子導入技術を用いる治療法の総称であり、ファブリー病を含め、複数の疾患を対象として研究の初期段階にあります9。ファブリー病は、標的細胞にアクセスしやすく、疾患改善に必要とされる酵素の修復レベルが比較的低いことから、遺伝子治療に適した疾患と考えられています12

ファブリー病の診断・治療には
遺伝子検査が重要です
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References:

  1. Desnick RJ, Brady R, Barranger J, et al. Fabry disease, an under-recognized multisystemic disorder: expert recommendations for diagnosis, management, and enzyme replacement therapy. Ann Intern Med. 2003;138(4):338-346.
  2. Mehta A, Beck M, Eyskens F, et al. Fabry disease: a review of current management strategies. QJM. 2010;103(9):641-659.
  3. Germain DP. Fabry disease. Orphanet J Rare Dis. 2010;5:30.
  4. Ortiz A, Germain DP, Desnick RJ, et al. Fabry disease revisited: Management and treatment recommendations for adult patients. Mol Genet Metab. 2018;123(4):416-427.
  5. Mignani R, Pieruzzi F, Berri F, et al. FAbry STabilization indEX (FASTEX): an innovative tool for the assessment of clinical stabilization in Fabry disease. Clin Kidney J. 2016;9(5):739-747.
  6. Wanner C, Arad M, Baron R, et al. European expert consensus statement on therapeutic goals in Fabry disease. Mol Genet Metab. 2018;124(3):189-203.
  7. Mehta A, Clarke JTR, Giugliani R, et al. Natural course of Fabry disease: changing pattern of causes of death in FOS - Fabry Outcome Survey. J Med Genet. 2009;46(8):548-552.
  8. Alipourfetrati S, Saeed A, Norris JM, Sheckley F, Rastogi A. A review of current and future treatment strategies for Fabry disease: a model for treating lysosomal storage diseases. J Pharmacol Clin Toxicol. 2015;3(3):1051.
  9. Suzuki Y. Emerging novel concept of chaperone therapies for protein misfolding diseases. Proc Jpn Acad. 2014;90(5):145-162.
  10. National Organization for Rare Disorders. Fabry Disease. https://rarediseases.org/rare-diseases/fabry-disease. Accessed August 15, 2020.
  11. Coutinho MF, Santos JI, Alves S. Less is more: substrate reduction therapy for lysosomal storage disorders. Int J Mol Sci. 2016;17(7):1065. doi:10.3390/ijms17071065
  12. Siatskas C, Medin JA. Gene therapy for Fabry disease. J Inherit Metab Dis. 2001;24 Suppl 2:25-41; discussion 11-2.