ファブリー病の診断方法

ファブリー病は、症状が多様で複数の臓器に及び、その重症度は患者・臓器ごとに異なるため、診断が難しい疾患です1,2

ファブリー病は「希」な疾患と考えられていますが、ファブリー病特有の症状がみられるわけではなく、顕在化する症状の多くが非特異的です。症状が複数の臓器に及ぶため、個々の症状は一般的な他の疾患と見分けがつきにくく、診断が難しい場合があります1,2

以下に、ファブリー病が疑われる症状とその検査方法を専門領域別に示しています。ファブリー病は全身性の疾患です。ご専門の領域で、ファブリー病が疑われる症状がみられた場合は、他の専門領域でみられる症状もあわせて確認することが重要です1,2

症状

以下のいずれかの症状はありますか?

  • 心筋症/左室肥大(高血圧なし/軽度)
  • 乳頭筋肥大
  • 不整脈(発作性または永続性心房細動、徐脈、悪性不整脈/心室頻拍)
  • 心筋梗塞
  • うっ血性心不全
  • 心筋内線維症
  • 弁膜症(僧帽弁、大動脈弁)
  • 呼吸困難

検査

以下の検査/処置の実施をご検討ください。

  • 心電図(P波が小さくPR間隔が短い、QRS幅が広い、再分極障害)
  • 負荷心電図
  • スパイロエルゴメトリー
  • ホルター心電図(24時間)
  • 心エコー法:左室肥大(12 mmを超える拡張末期壁厚)、乳頭筋肥大、置換性心筋線維化
  • 血液検査:高感度心筋トロポニン、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)

症状

以下のいずれかの症状はありますか?

  • 痙攣を伴う腹痛(主に食後)
  • 下痢
  • 悪心
  • 嘔吐
  • 便秘
  • 膨満感/早期満腹感
  • 鼓腸
  • 食欲不振
  • 胃排出遅延

検査

以下の検査/処置の実施をご検討ください。

  • 既往歴聴取/身体検査
  • 超音波検査
  • 上部消化管内視鏡検査(+生検)
  • 大腸内視鏡検査(+生検)
  • 必要に応じて水素呼気検査
  • 必要に応じてカプセル内視鏡検査

症状

以下のいずれかの症状はありますか?

  • 微量アルブミン尿/アルブミン尿
  • 尿中マルベリー小体→ タンパク尿(300 mg/日を超える)
  • GFR低下(GFRが60 mL/min/1.73 m2未満)
  • 四肢浮腫 (下肢浮腫からタンパク尿を疑う)
  • 傍腎盂嚢胞
  • 進行性腎不全
  • 透析
  • まれに尿細管性アシドーシスおよび腎性尿崩症

検査

以下の検査/処置の実施をご検討ください。

  • 腎機能検査:クレアチニンクリアランスと尿素クリアランスによるGFR、血清クレアチニン(mg/dL)、GFR(mL/min/1.73 m2) → 血清分析、試験紙を用いた尿タンパクまたは尿アルブミンの半定量検査、UPC、UAC → 随時尿中総タンパク、尿アルブミン、クレアチニンクリアランスと尿素クリアランスによるGFR → 24時間尿
  • 腎臓超音波検査(形態、血管病変、嚢胞)
  • 24時間血圧測定
  • 必要に応じて腎生検[グロボトリアオシルセラミド(GL-3)の沈着、線維化、硬化の評価] → 病態があればトルイジンブルー染色による光学顕微鏡検査を検討

症状

以下のいずれかの症状はありますか?

  • 一過性脳虚血発作、脳卒中、筋脱力
  • 肢端感覚異常 → 手足に灼熱感を伴う疼痛
  • 小径線維ニューロパチー
  • 疼痛発作
  • 発汗障害(発汗低下、まれに発汗過多)
  • 温度変化不耐症
  • 消化器症状
  • 脳底動脈(椎骨脳底動脈)拡張(症)
  • 白質病変
  • 涙液および唾液の分泌低下
  • うつ病
  • 疲労

検査

以下の検査/処置の実施をご検討ください。

  • ドプラ/デュプレックス(Duplex)超音波検査→特に脳底動脈の確認
  • 血管造影を含む頭部MRI → 白質病変、無症候性脳梗塞、脊髄病変、造影増強効果をみる
  • 誘発筋電図検査
  • 温度覚、振動覚、触覚の簡易検査
  • 定量的感覚検査→糖尿病、アルコール乱用等が除外された場合、小径線維ニューロパチーを疑う
  • 必要に応じて皮膚生検
  • BPI、WHO-5、MDI-10、SF-36健康状態調査票などの指標を用いた疼痛/QOLの評価
  • 発汗レベル、温度変化不耐症に関する問診

症状

以下のいずれかの症状はありますか?

  • 肢端感覚異常 → 手足に灼熱感を伴う疼痛
  • 小径線維ニューロパチー
  • 運動、ストレス、温度変化/発熱に誘発される疼痛発作
  • 温度変化不耐症
  • 発汗障害(発汗低下、まれに発汗過多)
  • 消化器症状
  • 線維筋痛症
  • 群発性頭痛/片頭痛
  • 関節痛

検査

以下の検査/処置の実施をご検討ください。

  • 既往歴聴取/身体検査
  • BPI、WHO-5、MDI-10、SF-36健康状態調査票などの指標を用いた疼痛/QOLの評価
  • 誘発筋電図検査
  • 温度覚、振動覚、触覚の簡易検査;定量的感覚検査
  • 必要に応じて皮膚生検
  • 発汗レベル、温度変化不耐症に関する問診
  • MRI

症状

以下のいずれかの症状はありますか?

  • 肢端感覚異常 → 手足に灼熱感を伴う疼痛
  • 消化器症状
  • 小径線維ニューロパチー
  • 運動、ストレス、温度変化/発熱に誘発される疼痛発作
  • 熱不耐症
  • 発汗障害(発汗低下、まれに発汗過多)
  • 渦巻き状角膜症
  • 四肢の慢性疼痛
  • 乳頭辺縁部の血管蛇行
  • 被角血管腫
  • タンパク尿(300 mg/日を超える)
  • 腎嚢胞
  • シスタチンC値上昇
  • 耳鳴/難聴
  • 傾眠/疲労

検査

以下の検査/処置の実施をご検討ください。

  • 既往歴聴取/家系調査/臨床検査
  • 疼痛とQOLに関する小児用質問票
  • 発汗レベル、温度変化不耐症に関する問診
  • 心電図/24時間心電図
  • 腎機能検査:アルブミン尿/クレアチニン/クレアチニンクリアランス/GFR/尿タンパク → 血清分析/随時尿/24時間尿
  • 細隙灯顕微鏡検査/反帰照明法/網膜検査と網膜写真撮影
  • オージオグラム
  • 頭部MRI

症状

以下のいずれかの症状はありますか?

  • 肢端感覚異常 → 手足に灼熱感を伴う疼痛
  • 小径線維ニューロパチー
  • 運動、ストレス、温度変化/発熱に誘発される疼痛発作
  • 関節痛
  • 赤血球沈降速度上昇

検査

以下の検査/処置の実施をご検討ください。

  • 既往歴聴取/身体検査
  • BPI、WHO-5、MDI-10、SF-36健康状態調査票などの指標を用いた疼痛/QOLの評価
  • 誘発筋電図検査
  • 温度覚、振動覚、触覚の簡易検査;定量的感覚検査
  • 必要に応じて皮膚生検
  • 発汗レベル、温度変化不耐症に関する問診
  • リウマチ学的臨床診断検査
  • 抗リウマチ薬の反応性

BPI:簡易疼痛調査票、MDI-10:10項目の大うつ病調査票、SF-36:Medical Outcomes Study Short-Form 36-Item(36項目の健康関連QOL質問票)、UAC:尿中アルブミン/クレアチニン比、UPC:尿タンパク/クレアチニン比、WHO-5:WHO-5精神的健康状態表

ファブリー病の疑いがある

ファブリー病の確定診断

ファブリー病の疑いがある

患者の既往歴・臨床症状または家族歴に、以下にあてはまるものがあるか確認します1,3

  • 肢端感覚異常
  • 被角血管腫
  • 発汗障害(乏汗症、無汗症)
  • 高熱不耐性とそれに伴う運動不耐性
  • 眼の角膜および水晶体の混濁
  • 原因不明の脳卒中
  • 原因不明の左室肥大
  • 原因不明の腎不全
  • その他、上記の専門領域ごとにみられる症状がある

ファブリー病の確定診断

以下の検査は、ファブリー病の確定診断または診断の補助に用いられます1,4

男性の場合

女性の場合

  • 酵素活性が正常範囲内の値を示す場合もあるため、酵素活性測定のみでの診断は困難です。
  • 家族歴、臨床症状、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)活性測定、尿中GL-3や血漿中グロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)濃度の測定、遺伝子検査などから総合的に診断します。
ファブリー病が各臓器に及ぼす影響

ファブリー病はさまざまな臓器に影響を及ぼします。

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References:

  1. Germain DP. Fabry disease. Orphanet J Rare Dis. 2010;5:30.
  2. Hoffmann B, Mayatepek E. Fabry disease-often seen, rarely diagnosed. Dtsch Arztebl Int. 2009;106(26):440-447.
  3. Kes VB, Cesarik M, Zavoreo I, et al. Guidelines for diagnosis, therapy and follow up of Anderson-Fabry disease. Acta Clin Croat. 2013;52(3):395-405.
  4. 大橋十也, 診断ガイドライン, 重症度スコア, ファブリー病UpDate. 衛藤義勝 責任編者, 診断と治療社, 2013, p.151